重曹はpH8.3の弱アルカリ性で、「炭酸水素ナトリウム」とも呼ばれます。
水に溶かして重曹水として用いる場合、軽度の油汚れには効果が見込めますが、頑固な油汚れや焦げ付きを落とすには不十分です。
そのため、重曹の洗浄力を高めるためにはpH値を上げる必要があります。
今回は、重曹のpH値を上げる方法として、2つの加熱方法を比較し、それぞれの効果と加熱後の変化、注意点について詳しく解説します。
重曹を加熱するとpHが上がる仕組み
重曹の加熱によるpHの変化は、加熱することで二酸化炭素が放出されるためです。
重曹、または炭酸水素ナトリウム(化学式NaHCO₃)を加熱すると二酸化炭素(CO2)が出て、炭酸ナトリウム(Na₂CO₃)に変わります。
この化学反応により、元のpH8.3の重曹から、pH11.58の炭酸ナトリウムへと変わります。以下、詳細については厚生労働省の安全情報を参照してください。
重曹のpHを上げると、どんな汚れが落ちる?
加熱前のpH 8.3で落とせる汚れは、軽度の油汚れや手垢、石鹸かすといったものです。
ほぼ中性に近く、通常の水拭きと大きな違いはありません。
一方、加熱後の炭酸ナトリウムはpHが11.58にまで上がり、油汚れや焦げ付きなどの頑固な汚れを落とすことができます。
ただし、非常に強力な汚れには効果が限られるため、その場合は専用の強力な洗剤の使用をおすすめします。
2つの加熱方法でpHが変わる
加熱方法には以下の2通りがあります。
- 重曹水を沸騰させる
- 粉のまま空炙りする
それぞれの方法と注意点について解説し、実際の加熱試験を通してどのような違いが生じるのかを検証しました。
重曹を加熱する際は、アルミニウム以外の鍋やステンレス製のフライパンの使用を推奨します。
フッ素加工された器具は、目に見えない細かな穴が開いていることがあり、酸やアルカリに反応しやすいアルミニウム部分が劣化するリスクがあります。
また、空炙りの場合、重曹の粒子がフッ素コーティングにダメージを与え、フライパンの劣化を早めることがあります。
重曹水の調整方法と沸騰技術
重曹を水に溶かし、その混合液を加熱します。
使用する水の量に対して、適切な重曹の量は100mlの水に対し小さじ1杯(約5g)です。
沸騰させる際の注意点
- 冷たい水から沸騰させる
- 沸騰中は周囲に何も置かないようにする
沸騰後に重曹を追加すると、溢れるリスクが高まるため、必ず冷水から加熱開始してください。
また、溢れる水滴が周囲に飛散しやすいことから、浅いフライパンの使用は避け、周囲には物を置かない方が清掃が容易です。
万が一飛び散った場合、汚れは濡れたタオルで拭き取ることができますが、固まってしまった場合は酸性の液体(酢やクエン酸等)を染み込ませたタオルで拭くと綺麗に除去できます。
鍋などでの空炙りについて
空炙りする際、適切な道具を選びましょう。
例えば、フッ素加工されたフライパンで空炙りを行うと、フッ素コーティングが劣化する原因になりかねません。
さらに、重曹を粉のまま使用すると、コーティングへのダメージが加速されます。
空炙りには、鍋やステンレス製のフライパンを使用することを推奨します。
空炙り時の注意点
- 重曹自体の見た目は変わりませんが、非常に高温になるため、やけどには十分注意してください。
- 二酸化炭素が発生するため、適切な換気を行ってください。
加熱後のpH値や必要な加熱時間については、以下の項目で詳述しています。
重曹水を加熱した際のpH値
水を約100mlに対して小さじ1杯(5g)の重曹を加えて混合した後のpH値は8.38でした。
これを同じ分量で沸騰させます。
加熱時間とpH値の変化
状態 | pH値 |
---|---|
加熱前 | 8.38 |
加熱5分後 | 9.74 |
沸騰後5分加熱 | 10.15 |
さらに5分加熱(合計10分) | 10.28 |
重曹を加熱すると一般的にpH11.0に達するため、加熱時間が不十分だった可能性があります。
十分な結果を得るには最低でも10分間沸騰させる必要があります。
10分間の沸騰により水分が蒸発するため、利用する際は水を多めに準備することが推奨されます。
重曹を空炙りした際のpH値
粉全体が均等に加熱されるよう、約1分間隔で軽く振り混ぜることを心掛けました。
重曹を扱う際には、フッ素コーティングを傷つけないためにもステンレス製のフライパンや鍋の使用をお勧めします。
5分間の空炙り後、100mlの水に熱した重曹小さじ1杯(5g)を加えてpHを測定したところ、12.4まで上昇しました。
さらに追加で5分間空炙りを続けた(合計10分間)後の測定では、pHが12.54になりました。
この結果から、重曹水を加熱するよりも空炙りによるpHの上昇が大きいことが確認できました。
加熱後の粉末を水に入れると白濁しますが、徐々に透明に近づきつつも若干濁りは残ります。
重曹のpH変化と保存方法
重曹は水に溶かすと高いpHを維持し、加熱しても冷却後のpHは下がりません。
特に粉末の状態であれば、湿気を避けることで水溶液よりも長期にわたって保存が可能です。
そのため、大量に使う場合には事前に重曹を加熱しておくと便利です。
排水口での重曹の使用効果
重曹を加熱すると、通常時のpH8.38から、10分でpH12.54にまで上昇した経験があります。
pHは1の変化でも濃度が10倍変わるため、加熱後の重曹は約10,000倍強力になります。
このため、排水口の清掃には加熱した重曹を使用するとより高い効果が期待できますが、ヌメリの除去には向いておらず、主に生ごみの消臭や油汚れの分解に有効です。
ヌメリの原因と対策
ヌメリは、細菌やバクテリアが増殖する際に生成される粘着質のある膜が原因です。
このバイオフィルムは油や石鹸かす、食材などをエサにして増殖します。
洗濯槽内部でも同様の現象が見られます。
多くの場が、重曹にクエン酸水を混ぜて発泡させる方法でヌメリ取りを試みていますが、この方法ではほとんど効果がありません。
ヌメリを取り除くには、酸性の汚れである油や石鹸かすを溶解し、細菌やバクテリアを死滅させるために塩素の使用が必要です。
重曹は油汚れには有効ですが、そのままでは弱アルカリ性であるため効果が薄く、クエン酸を加えて発泡させたとしても、汚れを溶かす力がないため単に泡立っているだけです。
空炙りによってpH値が上昇するのは事実ですが、クエン酸を混ぜて中和してしまうと効果が上がる意味がなくなります。
空炙りした重曹を排水口に撒く場合は、油汚れや石鹸かすを溶かす目的で単体使用をおすすめします。
まとめ:空炙りした重曹の利点と保存方法
加熱時間は空炙りであれば5分です。
沸騰させる場合は、最低でも10分必要となります。
また、重曹水は長期保管が難しいため、粉の状態での保管が推奨されます。
重曹は湿気に弱いというデメリットがありますが、珪藻土を使用することで固まる心配を無くすことができます。
使用する際に粉を都度溶かす手間を省きたい場合は、使用する水を「精製水」に変えると、水道水やミネラルウォーターと比較して長期保存が可能になりますのでお試しを。
おすすめの加熱方法は、手軽に作れて効果的な空炙りです。